CAPEX(キャペックス)とは、不動産や機械設備などの価値を高めるために行う支出や投資を指す会計用語で、資本的支出とも呼ばれます。税務上、CAPEX(資本的支出)は支出の際に減価償却が必要となるため、取り扱い方などの把握が重要となります。

修繕費との判定が難しいケースが多い建物や不動産でのCAPEX(資本的支出)の具体例として、空調機器やエレベーターの更新などが挙げられます。一般的に、CAPEX(資本的支出)は建物のライフサイクルコストの20%程にあたり、適切なマネジメントを行うことでコストの最適化につなげられます。

この記事では、CAPEX(資本的支出)の意味、OPEX(オペックス)や修繕費との違い、不動産・建物におけるCAPEXの割合と重要性、資本的支出と修繕費の判断基準・判断事例、建物のライフサイクルコスト削減のポイントや最適化事例などを網羅的に紹介しています。

CAPEXマネジメントや中長期修繕計画作成、改修工事費削減などを紹介している「既存施設の修繕・改修・ファシリティマネジメント」のページもあわせてご覧ください。実際の資料や成果物から具体的な支援内容をつかんでいただけます。

既存建物FMサービス紹介無料ダウンロード

CAPEX(資本的支出)とは?

CAPEX(キャペックス)とは、不動産や機械設備などの価値を高めるために行う支出や投資を指す会計用語で、資本的支出とも呼ばれます。建物におけるCAPEX(資本的支出)の具体例として、屋上防水の更新、空調機器の更新、エレベーターの更新のような、建築的部位や設備の耐用年数を延長させるための工事などが該当します。

建物におけるCAPEX(資本的支出)は、管理費・水道光熱費・修繕費などと同様に建物のランニングコストに含まれます。しかし、管理費・水道光熱費・修繕費が費用として計上される一方、資本的支出は資産として計上されます。

税務会計上、CAPEX(資本的支出)は固定資産と同じ扱いになり、支出時には国税庁が定める物品ごとの耐用年数に従って減価償却することが必要となります。また、資本的支出の法令解釈などを公開している国税庁の「資本的支出と修繕費」のページでは、該当する法文や例示などが確認できます。

CAPEX(資本的支出)とOPEXの分類のイメージ。建物のランニングコストのうち、修繕費・水道光熱費・税金などがOPEXに含まれます

CAPEXとOPEXとの違い

CAPEX(資本的支出)に対置される用語として、OPEX(オペックス)が挙げられます。OPEXとは、事業を運営する上で必要となる費用を指します。

建築物や不動産を例に取ると、建物のランニングコストのうちCAPEX(資本的支出)以外の費用がOPEXに該当します。具体的には、物件賃借料、水道光熱費、修繕費などのほか、警備・清掃・設備管理などのビルメンテナンス費や税金などもOPEXに含まれます。

CAPEX(資本的支出)OPEX
分類投資費用運営費用
具体例建物外装や空調設備などの耐用年数を延長する工事物件賃借料、水道光熱費、修繕費、ビルメンテナンス費、税金など
税務会計上の扱い資産(減価償却)費用(都度計上)

資本的支出(CAPEX)と修繕費との違い

税務上、資本的支出(CAPEX)に対置される用語として、修繕費が挙げられます。修繕費とは、建物の機能維持を目的とした消耗品や部品の交換・部分的な補修などの費用を指し、具体的には空調機のフィルター交換や、防水の部分的な補修工事などの費用が該当します。

修繕費と資本的支出(CAPEX)を区別する際の基本的な考え方として、耐用年数の延長を目的とした更新費用は資本的支出に分類されます。例えば、外壁の全面塗装塗り替えによって耐用年数を延長させるような外装工事は資本的支出(CAPEX)に該当します。

また、税務会計では資本的支出(CAPEX)が資産に分類されるのに対し、修繕費は建物の運営費であるOPEXに含まれ、費用に該当します。

不動産・建物におけるCAPEXの割合・重要性とは

建設費用・維持管理費用・解体費用など、不動産や建物にかかる費用のうち、CAPEX(資本的支出)が占める割合と重要性について紹介します。

建物の建設から解体までに要する全ての費用をライフサイクルコスト(LCC)と呼び、LCCのうち新築に伴う費用をイニシャルコストと呼びます。一方、維持管理や解体に伴う費用はランニングコストと呼ばれ、CAPEX(資本的支出)と修繕費はランニングコストに含まれます。

ライフサイクルコスト全体に対する一般的な割合として、新築費用などのイニシャルコストが14%程度にとどまるのに対し、修繕費は10%程度、CAPEX(資本的支出)は21%程度となり、合わせると30%を超えます。

このように、修繕費とCAPEX(資本的支出)は建物のライフサイクルコストの中でも大きな割合を占めており、建物のコスト最適化において適切にコントロールすることが重要となります。

一般的な建物を100年間使用した場合のライフサイクルコストの例。
修繕費と資本的支出(CAPEX)で30%以上を占めています

不動産・建物のCAPEX(資本的支出)と修繕費の判断基準・ポイント

不動産や建物といった固定資産に対して何らかの工事を行った場合、その工事費が資本的支出(CAPEX)にあたるか修繕費にあたるかについての判断基準は、国税庁が公開している法人税の基本通達「資本的支出と修繕費」や、税に関するよくある質問と回答をまとめたタックスアンサー「修繕費とならないものの判定」などで示されています。

以下のフローチャートは、法人税基本通達やタックスアンサーの内容をもとに作成したもので、資本的支(CAPEX)と修繕費の判断の概要を掴んでいただけます。実務上の具体的な個別の判断については、自社で契約されている会計事務所や税理士事務所などにご確認ください。

修繕費か資本的支出(CAPEX)かを判断できるフローチャート。判断が難しい場合の考え方が掴めます。
(※資本的支出か修繕費かが明らかでない場合、支出金額の30%相当額あるいは前期未取得価額の10%のいずれか少ない金額を継続して修繕費として経理している場合はその処理を認めるという基準。詳細は国税庁「資本的支出と修繕費」をご参照ください)

資産価値を高めたり耐久性を増すための費用が資本的支出(CAPEX)に該当することが基本的な考え方ですが、実際の判定においては原則的な考え方を踏まえつつ、金額基準などを用いてより総合的に判断します。

不動産・建物の資本的支出と修繕費の判定事例

不動産・建物のよくある支出について、資本的支出(CAPEX)にあたるか修繕費にあたるかを判定した事例を紹介します。中には判定が難しいケースもありますが、お客さまそれぞれにおいて判断されている場合が多いです。

改善項目概要判定
(資本的支出か修繕費か)
外壁の部分的な塗装工事スポット的な錆び等に対する塗装補修工事修繕費
外壁の全面塗装工事外壁全面の塗装を塗り替えることで耐久性が増す外壁工事資本的支出
防水工事の部分補修防水の部分的補修工事修繕費
防水工事の全面改修防水を全面更新する改修工事資本的支出
事務所ビルをホテルに変更するリノベーション建物の用途変更を伴う改修工事資本的支出
非常用発電機の定期点検消耗品や部品交換を伴う点検修繕費
受変電設備の更新工事箱体含めたキュービクルの全体更新工事資本的支出
給水ポンプのオーバーホールモーターや基盤等の部品交換含めた分解整備修繕費
ビル用マルチエアコンの更新工事室外機、室内機の交換工事資本的支出
自動制御設備の部分的更新複数年にわたる更新計画の単年度分に該当するような場合資本的支出
自動制御設備の全体更新工事システム、制御盤、センサー、PCなど全体の更新資本的支出

CAPEXマネジメントによって建物のライフサイクルコストを削減するための3つのポイント

不動産・建物のライフサイクルコスト(LCC)を削減するには、LCCの30%を占める修繕費および資本的支出(CAPEX)の適切なマネジメントが重要です。ここでは、CAPEX(資本的支出)の最適化やマネジメントにおけるポイントを3つにまとめてご紹介します。

ポイント1:中長期修繕計画を策定し、ライフサイクルコストの全容を把握しよう

CAPEX(資本的支出)マネジメントによりコスト削減を実現するためには、まず、中長期修繕計画を策定し建物のライフサイクルコスト(LCC)の全容を把握することが重要です。中⻑期修繕計画とは、建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新⼯事の時期と費⽤を予測するものです。

中長期修繕計画では予定する保有期間における修繕費と資本的支出(CAPEX)の総額や毎年の支出の目安を知ることができます。それらの金額と経営計画を照らし合わせることで、より実際に即した長期的な資金計画の立案が可能となります。

中長期修繕計画は定期的に作成することで、建物の劣化状況や修繕工事などにかかる概算費用などを把握でき、適切なCAPEX(資本的支出)マネジメントにつなげられます。

中長期修繕計画のイメージ。
建物の修繕工事の時期や費用などが可視化され、ライフサイクルコストが把握できます

ポイント2:予防保全と事後保全を使い分け、改修・更新工事のコスト最適化を実現しよう

CAPEX(資本的支出)マネジメントによってライフサイクルコスト(LCC)を削減するためには、予防保全と事後保全を区別し使い分けることが重要となります。

「予防保全」は壊れる前に修繕・更新を行うこと、「事後保全」は壊れてから交換することを指します。一般的な中長期修繕計画はロングライフビル推進協会(BELCA)が提唱する更新周期や各メーカーが推奨する修繕計画がもとになっていますが、それらは基本的に予防保全がベースになっています。

もちろん、全ての設備や部位について不具合が出る前に交換や修繕を実施すれば何の問題もなく建物を運用できますが、築年が進むほど大きな金額となることが多く、予算の確保も難しくなるような建物所有者の方も多く見受けられます。一方、全ての部位について壊れてから対処するような運用では、建物利用者への影響が大きく安全も確保できません。

実際的な運用として、壊れてからや予兆が出てからの対応で良いものは事後保全とするか更新周期の見直しを行ってコストを削減し、安全やテナント運営に影響が大きいものに関しては予防保全を実施して安全安心を確保する、といったバランスの取れたCAPEXマネジメントが重要となります。

既存の中長期修繕計画の見直し業務のイメージ。予防保全と事後保全を使い分け、LCCを最適化

ポイント3:工事見積の内容と金額を精査して妥当性を検証しましょう

CAPEX(資本的支出)マネジメントによるライフサイクルコスト(LCC)の削減には、工事見積の内容や金額を精査し妥当性を検証・判断することも含まれます。

実施する工事が決まったら発注工程に入りますが、可能であれば競争環境を作り、複数の施工者から見積を取得することをおすすめします。複数の見積を比較することで工事金額や見積内容の妥当性を検証できます。

元施工者やメンテナンスを行っているメーカーへの特命発注となる場合などは、特に注意して見積内容を確認する必要があります。自社での対応が難しい場合は、発注業務やコスト検証の支援にコンストラクションマネジメント(CM)会社を起用することも効果的です。

修繕工事見積書の精査のイメージ。
工事金額や妥当性について検証することで、コスト最適化につなげられます
妥当性検証結果報告書のイメージ。
具体的な工事内容などから見積の妥当性を客観的に判断しています

CAPEXマネジメントのフロー・流れ

CAPEX(資本的支出)マネジメントを実施する際のフロー・流れを紹介します。CAPEX(資本的支出)マネジメントでは、長期修繕計画、中期修繕計画、短期修繕・改修実行計画などの作成を通じて段階的に劣化状況を把握したうえで、工事の優先順位を決めることが基本となります。

具体的には、まず建物劣化診断を行い建物の現状を把握した上で、中長期修繕計画を作成します。次に、中長期修繕計画を元にして改修工事実行計画を策定しつつ、設計者・施工者の選定などを行い、改修工事を順次実施していきます。

CAPEX(資本的支出)マネジメントの流れのイメージ。
段階的に劣化状況を把握し、優先順位決めた上で修繕や改修工事を進めます

適切なCAPEXマネジメントを実行するには、長期、中期、短期それぞれのフェーズで修繕計画を策定し、段階的に実行して行くことが重要です。長期は30年間から50年間の長いスパンでの修繕計画となり、中期は5年間前後、短期は1年間が一般的です。

短期になるほど実行計画に近づくため、項目は細かくなり金額の精度は上がっていきます。長期ではライフサイクルコストを把握し、中期では劣化度を踏まえた優先度の検討を行い、短期では発注スキームの検討や工事費の精査を実施します。

CAPEXマネジメント・FMの事例紹介

アクアは、建物を所有・運用する方々の側に立ち、CAPEXに関する様々なサービスを実施しています。

中長期修繕計画の立案、既存の中長期修繕計画の検証、改修工事の発注支援、修繕更新工事の見積精査など、CAPEXの最適化に関するさまざまな支援を行っているアクアのCAPEXマネジメントの事例について、概要やポイントを紹介します。

事例1:東京都港区の中規模オフィスビルにおけるCAPEXマネジメントの事例

東京都港区にある中規模オフィスビルの中長期修繕計画を検証した事例です。竣工から数年経過し、年間の修繕費用として大きな金額が発生するような時期に来ていました。既存の中長期修繕計画は存在しましたが、竣工時に施工者が作成したものだったため、内容の妥当性の確認やライフサイクルコスト(LCC)の減額を目的とした見直しがお客さまの要望でした。

アクアは現地調査による劣化診断のほか、類似の建物の運用段階におけるさまざまなデータや事例を元に既存の中長期修繕計画の検証を行い、高コスト要因を可視化しつつ過剰と思われる項目の見直しや金額の精査を実施しました。さらに、維持管理レベルに応じた複数の修繕計画を提案しました

東京都港区の中規模オフィスビルにおけるCAPEXマネジメントのポイント

東京都港区の中規模オフィスビルにおけるCAPEXマネジメントのポイント・効果は以下の通りです。

建物主要部位の更新周期見直しのイメージ。
更新周期を現実的な年数に見直し、未更新時のリスク整理などを行いました

事例2:教育機関における複数施設の長期修繕計画策定業務事例

教育機関が保有する”新旧混在”の複数施設について、長期修繕計画を作成した事例です。これまでの修繕や改修は壊れてからや不具合があってからの事後対応が主でしたが、今後はより計画性をもって維持保全していきたいという思いからアクアに依頼いただきました。

アクアは、全施設現地調査、図面や修繕履歴の確認、各関係者へのヒアリングを行い、建築・電気・空調・衛生・搬送設備を網羅した長期修繕計画を作成しました。施設によって築年数に違いがあったため、過去の修繕履歴には特に注意しつつ、各施設の現状を正確に把握できる長期修繕計画を策定しました。

教育機関における複数施設の長期修繕計画策定業務のポイント

教育機関における複数施設の長期修繕計画策定業務のポイント・効果は以下の通りです。

全施設の劣化状況をまとめた計画書のイメージ。
工事の緊急性などを評価し、改善計画の優先順位を整理しました
ひとつの施設の長期修繕計画。
全ての施設において作成しました

事例3:全国数十棟の保有施設における包括的CAPEXマネジメント事例

オフィスビル、商業施設、集合住宅などの施設を全国に多数所有するお客さまに対する包括的支援業務の事例です。当初は全施設を包含した修繕計画は無く、ライフサイクルコスト(LCC)は不明の状態でした。そのため、改修工事の優先順位をつけることが難しく、各建物管理会社からの提案をそのまま受け入れて工事発注が行われていました。

アクアは、修繕更新工事の見積精査を行うと共に全保有施設の中長期修繕計画を策定し、ライフサイクルコストを可視化するとともに、手を掛けるべき施設の優先順位の整理、エネルギー使用量の可視化と削減計画の立案を行いました。

全国数十棟の保有施設における包括的CAPEXマネジメントのポイント

全国数十棟の保有施設における包括的CAPEXマネジメントのポイント・効果は以下の通りです。

各施設の設備などの更新の緊急性やコストをまとめた計画書のイメージ。数十棟の保有施設について、改修・更新の優先度を整理しました
ひとつの施設の長期修繕計画。
全ての施設において作成しました

まとめ:CAPEXマネジメントで建物のランニングコストを最適化しよう

CAPEX(資本的支出)は、建築の資産価値の向上や収益の向上など、投資効果を高める目的の支出です。資産となるCAPEX(資本的支出)と費用となるOPEXの使い分けを適切にマネジメントすることで、不動産・建物のライフサイクルコスト(LCC)の大部分を占めるランニングコストを最適化することができます。

CAPEXマネジメントによってコスト最適化を実現するポイントは以下の通りです。

アクアは、建物の修繕・改修・ファシリティマネジメントのプロとして、お客さまの建物・施設の運用コストを最適化し、リスク低減をサポートいたします。既存建物の現状把握や中長期修繕計画の立案、CAPEXマネジメントなどにお困りの方は、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。

CAPEXマネジメント・ファシリティマネジメントに関する事例・リンク

サービスページ「既存建物の修繕・改修・ファシリティマネジメント」

企業が保有・運用している建物の修繕・更新・改修に関するCAPEXマネジメントについて、実際の作成資料や成果物を交えてサポート内容を紹介しているページです。建物診断、中長期修繕計画の立案、改修工事の予算策定、修繕・更新工事の見積精査などについて、アクアの具体的なサポート内容をご覧いただけます。

コンストラクションマネジメントとは?費用、契約、大手CM会社の特徴・選び方を紹介

既存建物の運営、維持管理、修繕・更新・改修⼯事などを支援するコンストラクションマネジメント(CM方式)について紹介しているページです。CM方式の概要、導入のメリット、CM会社の選び方、費用の算出方法や相場、CM活用事例などを紹介しています。

中長期修繕計画とは? 内容と見方・作成方法・費用・メリットを紹介

建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新⼯事の時期と費⽤を予測する、中長期修繕計画について紹介しているページです。既存建物の中長期修繕計画を作成するメリットや、中長期修繕計画の作成手順・費用・活用方法などを紹介しています。