お役立ち情報中長期修繕計画とは?
内容と見方・作成方法・費用・メリットを紹介

中⻑期修繕計画とは、建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新⼯事の時期と費⽤を予測するものです。主に、オフィスビル・マンション・⼯場といった建物の所有者が、建築物の維持に必要な費⽤を把握したり投資計画を⽴案するために作成されます。

この記事では、建物の種類や中⻑期修繕計画作成の⽬的に合わせた、作成のポイントや費⽤の解説をしています。また、中⻑期修繕計画の内容や⾒⽅、作成⼿順、活⽤⽅法などについて網羅的に紹介しています。

中⻑期修繕計画を元にした施設の維持管理・ファシリティマネジメントの⽀援を必要とされている⽅は、「既存建物の修繕・改修・ファシリティマネジメント」のページをあわせてご覧ください。

中長期修繕計画作成やCAPEXマネジメント、改修工事費削減などを紹介している「既存施設の修繕・改修・ファシリティマネジメント」のページもあわせてご覧ください。実際の資料や成果物から具体的な支援内容をつかんでいただけます。

中長期修繕計画とは?
企業不動産・建物と分譲マンションなどの違い

中長期修繕計画とは、建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新工事の時期とそれらの費用を予測する計画のことです。

建物の建築から解体までの生涯にかかる費用をライフサイクルコスト(LCC)と言います。そのうちの新築に要する費用をイニシャルコスト、運用段階で要する費用をランニングコストと呼びます。

ランニングコストは主に「修繕・更新費」、「水道光熱費」、「保全費(BM費、警備費、清掃費など)」に分かれます。中長期修繕計画はこの「修繕・更新費」を対象とした計画です。

中長期修繕計画の対象とする期間は10年~60年と幅があり、作成する目的や作成する時点の築年数によって異なります。特に築古の建物の場合は劣化診断を実施したうえで中長期修繕計画を作成する事が望ましいです。

分譲マンション(集合住宅)の長期修繕計画との違い

分譲マンションにおける長期修繕計画の目的には、区分所有者が負担する修繕積立金の根拠とするということが加わります。

また、修繕計画についてあらかじめ合意しておくことで、計画修繕工事の円滑な実施を図るという目的もあります。一方、企業不動産の場合と異なり、「修繕費」と「更新費」の区別はあまり必要になりません。

マンションの長期修繕計画について、詳しくは国土交通省からガイドラインが発行されています。管理組合の業務である長期修繕計画の基本的な考え方、作成方法などについてまとめられています。

中長期修繕計画の内容・見方は?
報告書のサンプルを紹介

一般的な中長期修繕計画は、以下の図1(中長期修繕計画集計表)のように各年の修繕・更新費を建築、電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備、搬送設備などの大項目に分類した上で集計します。

各年毎の合計金額は棒グラフ、累計金額は折れ線グラフ、大項目ごとの金額割合は円グラフなどで表現されることが多いようです。延床面積(坪)あたりの坪単価の記載があると、複数棟所有されている場合に比較がしやすくなります。

中⻑期修繕計画集計表

図1 : 中⻑期修繕計画集計表

各大項目の内訳には、以下の図2(中長期修繕計画内訳書)のような様式が用いられます。

建築であれば各部位ごと、設備であれば各設備ごとそれぞれに「仕様」、「設置場所」、「数量」、「最終更新年」、「推奨更新周期」、「劣化度」、「調査結果コメント」、「修繕費」、「更新費」などが記載されていると建物の状況がより具体的に把握できます。

中長期修繕計画内訳書

図2:中長期修繕計画内訳書

特に「最終更新年」は各部位、設備の残存耐用年数を算出する上で重要です。項目の細かさは、中長期修繕計画の作成目的によって変わります。

既存建物の中長期修繕計画を作成する
4つのメリット

既存の建物において、建物所有者が何回も変わったり、改修工事を何回も繰り返していて、建物の現状を把握できていないケースも多く見られます。

また、中長期修繕計画を作成していない、新築時に作成した中長期修繕計画しかない、エンジニアリングレポート(ER)に記載の修繕計画しかない、前回の作成から5年以上経過している、といった場合にも、中長期修繕計画を作成することをお勧めいたします。

ここでは既存建物の中長期修繕計画を作成する4つのメリットをご紹介します。

建物の劣化状況がわかる

既存建物の中長期修繕計画を作成する場合、机上もしくは現地での劣化診断を行うことをお勧めします。

建物は経過年数によって徐々に劣化していきますが、使用状況、立地、維持管理状況によっては通常よりも早く劣化が進行したり、逆に遅くなったりします。劣化診断を行う事で現状の劣化状況がわかります。

建物がこれまでにどのように維持管理されてきたかがわかる

建物の主な部位や設備には更新すべき時期「推奨更新周期」があり、公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)が定めるものが一般的です。

中長期修繕計画を作成するにあたり、建物の修繕履歴を確認することが必要ですが、「推奨更新周期」を遵守して修繕更新工事が行われてきたかは、それまでの維持管理が適切だったかを判断する一つの基準となります。

建物の維持に必要となる費用がわかる

建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新工事の時期とそれらの「概算」工事費がわかります。

将来の工事費を予測して算出される「概算」なので、工事実施の際の施工者による見積とは異なりますが、その差が小さいほど精度の高い「概算」であると言えます。

仮設工事(足場や養生)や付帯工事(空調改修工事における天井解体復旧工事などの、工事対象のみでなく周囲の部位などに波及して必要となる工事)も含んで算出することが重要です。

建物の改修方針を立てることができる

実施すべき時期が近い工事は、それぞれ単体で行うよりは、まとめて実施する方が施設の運営に与える影響を少なくすることが出来ます。

また、新築時には最新だった設備などの仕様が陳腐化している場合も多いため、改修工事の際に仕様を見直すことでバリューアップを図ることもできます。

さらに、壊れる前に更新しておかなくてはならない設備や、不具合が起きてから対処しても問題ない項目など、それぞれの優先順位も明らかになります。中長期修繕計画は、改修計画を立案する為の判断材料とすることができます。

中長期修繕計画の
作成手順や費用、活用方法とは

中長期修繕計画を作成手順は以下となります。

  • 書類確認(図面、修繕履歴、新築時の工事費内訳書)
  • 現地調査(目視)
  • 施設管理者へのヒアリング
  • 修繕更新項目の作成
  • 修繕更新時期の設定
  • 修繕更新金額の算出
  • 中長期修繕計画書の作成、まとめ

中長期修繕計画の作成に必要な費用や期間は、求める精度によって異なります。数十年間の修繕更新費を大まかに知りたいという要望であれば短期間、低予算(1施設あたり50~150万程度)で実施可能です。

それに対して建物の全部位部材をリストアップし、ビル管理現場でも活用出来るものにしようとすると作成に長期間を要し、費用も相対的に高くなっていきます。

一方、エンジニアリングレポート(ER)の中でも12年間の修繕計画が作成されます。ERには他に、遵法性や地震リスクの確認、再調達価格の評価なども含まれており、不動産売買において物件の物理的評価を行うことが目的の評価書です。

ERの場合、修繕更新費の項目は大まかな分類に留め、工事費も過去類似物件からの類推などで短期間で作成できる様に工夫されている分、高い精度を求めることはできません。短期間、低予算で作成可能ではありますが、物件売買時の判断の目安に用いるためのものという位置づけです。

中長期修繕計画を立案し、
計画的に設備投資を実施しましょう

中長期修繕計画は、建物を長く快適に使っていくための道しるべとなるものです。有効に活用することで、ポイントをおさえた設備投資と適切な施設運用が実現できます。

  • 中長期修繕計画は企業不動産・建物と分譲マンションにおいて若干使い道が異なる
  • 「最終更新年」の把握は、各部位や設備の残存耐用年数を算出する上で重要
  • 建物の現状を把握できていない場合は中長期修繕計画の作成が有効
  • 中長期修繕計画の作成費用や作成期間は、活用目的によって変動する

アクアは、建物の修繕・改修・ファシリティマネジメントのプロとして、お客さまの建物・施設の運用コストを最適化し、リスク低減をサポートいたします。既存建物の現状把握や中長期修繕計画の立案などにお困りの方は、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。

中長期修繕計画に関する事例・リンク

サービスページ「既存建物の修繕・改修・ファシリティマネジメント」

企業が保有・運用している建物の修繕・更新・改修に関するファシリティマネジメントについて、実際の作成資料や成果物を交えてサポート内容を紹介しているページです。建物診断、中長期修繕計画の立案、改修工事の予算策定、修繕・更新工事の見積精査などについて、アクアの具体的なサポート内容をご覧いただけます。

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