中長期修繕計画とは、建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新工事の時期と費用を予測するものです。主に、オフィスビル・マンション・工場といった建物の所有者が、建築物の維持に必要な費用を把握したり投資計画を立案するために作成されます。

この記事では、建物の種類や中長期修繕計画作成の目的に合わせた、作成のポイントや費用の解説をしています。また、中長期修繕計画の内容や見方、作成手順、活用方法などについて網羅的に紹介しています。

中長期修繕計画を元にした施設の維持管理・ファシリティマネジメントの支援を必要とされている方は、既存建物の修繕・改修・ファシリティマネジメントのページをあわせてご覧ください。

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中長期修繕計画とは?分譲マンションと企業不動産・建物などの違い

中長期修繕計画とは、建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新工事の時期とそれらの費用を予測する計画のことです。

建物の建築から解体までの生涯にかかる費用をライフサイクルコスト(LCC)と言います。そのうちの新築に要する費用をイニシャルコスト、運用段階で要する費用をランニングコストと呼びます。

ランニングコストは主に「修繕・更新費」、「水道光熱費」、「保全費(BM費、警備費、清掃費など)」に分かれます。中長期修繕計画はこの「修繕・更新費」を対象とした計画です。

一般的な建物を100年間使用した場合のライフサイクルコストの例。「修繕・更新費」で約3割を占めます。

中長期修繕計画の対象とする期間は10年〜60年と幅があり、作成する目的や作成する時点の築年数によって異なります。特に築古の建物の場合は劣化診断を実施したうえで中長期修繕計画を作成する事が望ましいです。

分譲マンション(集合住宅)の長期修繕計画と企業不動産・建物の中長期修繕計画との違い

分譲マンションと企業不動産・建物では、長期修繕計画の作成タイミングや精度に違いがあります。

分譲マンションでは、区分所有者が「修繕積立金」を定期的に積み立て、修繕費用を賄う仕組みがあるため、販売時点で管理組合や事業者が精度の高い長期修繕計画を作成する場合が多いです。マンションの長期修繕計画について、詳しくは国土交通省からガイドラインが発行されています。管理組合の業務である長期修繕計画の基本的な考え方、作成方法などについてまとめられています。

一方、企業不動産・建物では、中長期修繕計画の作成のタイミングは事業者によってまちまちです。また、新築時点で中長期修繕計画を作成する場合でも、積立修繕金の算出を行う分譲マンションに比べると、精度が高くない場合もありますが、企業不動産でも早期に精度の高い中長期修繕計画を作成することで、将来の修繕・更新費用の見通しを立てられ、予算計画や資産価値の維持に役立ちます。

中長期修繕計画の内容・見方は?報告書のサンプルを紹介

一般的な中長期修繕計画は、中長期修繕計画集計表、中長期修繕計画内訳書、必要に応じて劣化診断報告書で構成されます。

中長期修繕計画書のイメージ。中長期修繕計画集計表、中長期修繕計画内訳書、必要に応じて劣化診断報告書で構成されます。

中長期修繕計画集計表では、建築、電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備、搬送設備などの大項目ごとに、各年度で必要となる修繕・更新費が記載されます。各年の合計金額は棒グラフ、累計金額は折れ線グラフで表現されることが多く、延床面積(坪)あたりの坪単価を記載すると、複数棟所有時の比較も容易になります。

中長期修繕計画集計表のイメージ。建築、電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備、搬送設備などの大項目ごとに、各年度で必要となる修繕・更新費が記載されます。

中長期修繕計画内訳書は、集計表の各工事項目をさらに細かく分けて記載したものです。建築であれば部位ごと、設備であれば各設備ごとに、「仕様」「設置場所」「数量」「最終更新年」「推奨更新周期」「劣化度」「調査結果コメント」「修繕費」「更新費」などが記載され、建物の状況を具体的に把握できます。

中長期修繕計画内訳書のイメージ。集計表の各工事項目をさらに細かく分けて記載してあります。

特に「最終更新年」は、各部位や設備の残存耐用年数を算出する上で重要な項目です。なお、項目の詳細度は、中長期修繕計画の作成目的や管理方針に応じて調整されます。

中長期修繕計画の作成手順や費用、活用方法とは

中長期修繕計画の作成手順は、基本的に以下の流れで進められます。まず書類の確認に始まり、現地調査や施設管理者へのヒアリングを経て、修繕・更新項目をリストアップし、修繕更新費を算出します。

書類の確認に始まり、現地調査や施設管理者へのヒアリングを経て、修繕・更新項目をリストアップし、修繕更新費を算出することで、中長期修繕計画書が作成されます。

計画作成に必要な費用や期間は、建物規模や保存されている資料によって大きく異なります。特に図面や新築時点での工事見積書、修繕履歴などの残存する資料がない場合は、現地調査や施設管理者へのヒアリングなどに多くの時間がかかり、費用が高くなる傾向にあります。

中長期修繕計画を作成することで、建物の劣化状況や維持管理履歴、将来必要となる修繕・更新費用を把握できます。これにより、修繕・更新の方針を計画的に立てることが可能となり、建物を長期にわたり快適かつ安全に使用するための基盤が整います。

既存建物の中長期修繕計画を作成する4つのメリット

既存建物では、所有者の変更や繰り返される改修工事により、建物の現状が把握できないことが少なくありません。

新築時の計画のみしかない場合や、前回の修繕計画作成から時間が経過している場合も、中長期修繕計画の作成が有効です。

ここでは、既存建物の中長期修繕計画を作成する4つのメリットをご紹介します。

修繕・更新費の適正化|過剰な支出を抑えて、LCC削減を実現できる

不動産・建物のライフサイクルコスト(LCC)を削減するには、LCCの約30%を占める修繕・更新費の適切なマネジメントが重要です。中長期修繕計画を策定し、修繕や更新の時期・内容を計画的に管理することで、コストの最適化と効率的な維持保全が可能になります。

LCCのうち、建設時の費用をイニシャルコスト、維持管理や解体時の費用をランニングコストと呼びます。修繕費や更新費はランニングコストに含まれ、全体の約3割を占めるため、建物の長期的な運用を見据えて修繕・更新を最適化することで、過剰な支出を抑えることができます。

LCCを削減するには、中長期修繕計画を作成し、建物の全容を把握したうえで「故障前に修理する予防保全」と「故障後に対応する事後保全」を適切に使い分けることが重要です。すべてを予防保全で対応すると支出が増え、逆に事後保全に偏ると安全性や運営に支障が生じるため、予防保全と事後保全の適切なバランスが求められます。

既存の中長期修繕計画の見直し業務のイメージ。予防保全と事後保全を使い分け、LCCを最適化

このように、中長期修繕計画を活用することで、修繕更新費の最適化と建物の長期的な安定運用の両立が可能となります。

ランニングコストの低減|修繕・更新費以外のランニングコストの低減を実現できる

中長期修繕計画を作成することで、「修繕・更新費」だけでなく、それ以外のランニングコストの低減にもつなげることができます。

ランニングコストは主に「修繕・更新費」、「水道光熱費」、「保全費(BM費、警備費、清掃費など)」に分かれます。中長期修繕計画は主に「修繕・更新費」を対象としますが、策定した計画を参照して設備の仕様や建材の見直しを行うことで、水道光熱費や保全費など他の費用も抑制できます。

例えば、修繕更新の計画を立てる際に、既存設備の容量を見直したり、高効率の設備を導入することで水道光熱費を低減できます。また、外壁の修繕時には耐久性が高く、清掃性に優れた塗料を使用することで保全費の削減にもつなげられます。

設備機器の仕様の見直しを行った事例。実際の使用状況を考慮し、既存の設備機器を見直すことで、ランニングコストの低減につながりました

このように、中長期修繕計画を活用することで、建物の「修繕・更新費」だけでなく、その他のランニングコストの効率化も図ることができます。

戦略的なバリューアップ|建物の長期運用を見据えた効率的な改修計画を策定できる

中長期修繕計画は、建物のバリューアップを計画的に実施する上でも有効です。建物の修繕や更新の時期・内容を長期的に把握することで、通常の維持管理だけでなく、リニューアルや設備更新、内装改修などの戦略的な改修を適切なタイミングで行うことができます。

中長期修繕計画には、建物や設備の劣化状況や使用状況の情報が反映されるため、どの部分に投資すれば資産価値向上効果が最大化できるかを合理的に判断できます。無駄なコストをかけずに、効率的かつ戦略的なバリューアップが可能になります。

さらに、中長期修繕計画をもとに計画的なバリューアップを行うことで、建物の物理的・機能的な陳腐化を防ぎ、資産価値を維持・向上させることができます。これにより、収益性の確保や市場における競争力の強化につなげることができます。

このように、中長期修繕計画は建物の長期運用を支えるだけでなく、戦略的なバリューアップを効率的に実施するための土台として活用できるのです。

長寿命化|計画的な修繕・更新により、長寿命化に貢献できる

中長期修繕計画を策定することで、計画的な修繕や更新により建物や設備の劣化を抑え、健全な状態を長く維持できるため、建物の長寿命化につなげることができます。

建物の寿命を延ばすには、適切な修繕・更新計画が欠かせません。中長期修繕計画を作成することで、建物の実態に即した予防保全を計画的に行い、突発的な故障や不具合を未然に防ぐことができます。また、設備や部材の更新時期を最適化することで、部材寿命を最大限に活かし、効率的な修繕も実現できます。

さらに、計画的に修繕費を見通すことで、費用と品質のバランスを取りやすくなります。必要な修繕を適切なタイミングで実施できるため、建物の安全性や運用効率も確保されます。

このように、中長期修繕計画を活用することで、適切な予防保全・更新・劣化対策・費用管理を実施することが可能となり、建物の長寿命化と安全な運用を両立する基盤を整えることができます。

中長期修繕計画策定業務・FMの事例紹介

アクアは、建物を所有・運用する方々の立場に立ち、中長期修繕計画の策定に関する多様なサービスを提供しています。

具体的には、中長期修繕計画の立案、既存計画の検証、改修工事の発注支援、修繕・更新工事の見積精査など、幅広い支援を行っています。ここでは、アクアが提供する中長期修繕計画関連のサービスの概要やポイントを紹介します。

事例1:東京都港区の中規模オフィスビルにおける中長期修繕計画策定業務

東京都港区にある中規模オフィスビルの中長期修繕計画を検証した事例です。竣工から数年経過し、年間の修繕費用として大きな金額が発生するような時期に来ていました。既存の中長期修繕計画は存在しましたが、竣工時に施工者が作成したものだったため、内容の妥当性の確認やライフサイクルコスト(LCC)の減額を目的とした見直しがお客さまの要望でした。

アクアは現地調査による劣化診断のほか、類似の建物の運用段階におけるさまざまなデータや事例を元に既存の中長期修繕計画の検証を行い、高コスト要因を可視化しつつ過剰と思われる項目の見直しや金額の精査を実施しました。さらに、維持管理レベルに応じた複数の修繕計画を提案しました。

東京都港区の中規模オフィスビルにおける中長期修繕計画策定業務のポイント

東京都港区の中規模オフィスビルにおける中長期修繕計画策定業務のポイント・効果は以下の通りです。

建物主要部位の更新周期見直しのイメージ。更新周期を現実的な年数に見直し、未更新時のリスク整理などを行いました

事例2:教育機関における複数施設の中長期修繕計画策定業務

教育機関が保有する”新旧混在”の複数施設について、中長期修繕計画を作成した事例です。これまでの修繕や改修は壊れてからや不具合があってからの事後対応が主でしたが、今後はより計画性をもって維持保全していきたいという思いからアクアに依頼いただきました。

アクアは、全施設現地調査、図面や修繕履歴の確認、各関係者へのヒアリングを行い、建築・電気・空調・衛生・搬送設備を網羅した中長期修繕計画を作成しました。施設によって築年数に違いがあったため、過去の修繕履歴には特に注意しつつ、各施設の現状を正確に把握できる中長期修繕計画を策定しました。

大阪府の学校における複数施設の中長期修繕計画策定業務のポイント

教育機関における複数施設の中長期修繕計画策定業務のポイント・効果は以下の通りです。

全施設の劣化状況をまとめた計画書のイメージ。工事の緊急性などを評価し、改善計画の優先順位を整理しました
ひとつの施設の中長期修繕計画。全ての施設において作成しました

事例3:全国数十棟の保有施設における中長期修繕計画策定業務

オフィスビル、商業施設、集合住宅などの施設を全国に多数所有するお客さまに対する中長期修繕計画策定業務の事例です。当初は全施設を包含した修繕計画は無く、ライフサイクルコスト(LCC)は不明の状態でした。そのため、改修工事の優先順位をつけることが難しく、各建物管理会社からの提案をそのまま受け入れて工事発注が行われていました。

アクアは、修繕更新工事の見積精査を行うと共に全保有施設の中長期修繕計画を策定し、ライフサイクルコストを可視化するとともに、手を掛けるべき施設の優先順位の整理、エネルギー使用量の可視化と削減計画の立案を行いました。

全国数十棟の保有施設における中長期修繕計画策定業務のポイント

全国数十棟の保有施設における中長期修繕計画策定業務のポイント・効果は以下の通りです。

各施設の設備などの更新の緊急性やコストをまとめた計画書のイメージ。数十棟の保有施設について、改修・更新の優先度を整理しました
ひとつの施設の学校の中長期修繕計画におけるコスト推移のイメージ。全ての施設において作成しました

中長期修繕計画を立案し、計画的に設備投資を実施しましょう

中長期修繕計画は、建物を長く快適に使っていくための道しるべとなるものです。有効に活用することで、ポイントをおさえた設備投資と適切な施設運用が実現できます。

アクアは、建物の修繕・改修・ファシリティマネジメントのプロとして、お客さまの建物・施設の運用コストを最適化し、リスク低減をサポートいたします。既存建物の現状把握や中長期修繕計画の立案などにお困りの方は、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください

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中長期修繕計画に関する事例・リンク

サービスページ「既存建物の修繕・改修・ファシリティマネジメント」

企業が保有・運用している建物の修繕・更新・改修に関するファシリティマネジメントについて、実際の作成資料や成果物を交えてサポート内容を紹介しているページです。建物診断、中長期修繕計画の立案、改修工事の予算策定、修繕・更新工事の見積精査などについて、アクアの具体的なサポート内容をご覧いただけます。

コンストラクションマネジメントとは?費用、契約、大手CM会社の特徴・選び方を紹介

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CAPEX(資本的支出)とは? 意味、OPEX・修繕費との違い、減価償却、改修コスト削減方法を紹介

建物の機能を維持していくために必要な修繕・更新⼯事の時期と費⽤を予測する、CAPEX(資本的支出)について紹介しているページです。CAPEXの意味、OPEX(オペックス)や修繕費との違い、CAPEXマネジメントの導入事例などを紹介しています。